- 2024年9月2日
マチネの終わりに、で有名な(しかし読んだことはない・・・)平野啓一郎さんの著書「本心」を読みました。
久しぶりにしっかりとした小説を読みました。ネタバレも入ると思いますので未読の方はご注意ください。普段はビジネス書などを読むことが多いので、小説を読むのは久しぶりでした。ですので若干ピントのずれた感想を書いてしまうかもしれません。
あと、すみません、舎鈴のつけ麺と写っている写真しかなかったので、それを貼っておきます・・・(小説は紙の本で読みたい派)
文体が読みやすくて好き
全体的に文章が綺麗で読みやすく、読むのが楽しい本でした。2040年を舞台にしているのですが、状況はなんとなく把握でき、違和感なく読めます。主人公が生業としている「リアル・アバター」がどういうものなのかは、理解するのが中盤に差し掛かったところでした。
リアルの人を操作したい。なるほど・・・そういうニーズ、あるかもしれないですね。自分ではなんとなくできないけど、他の人にやらせてどんな感じなのか見てみたい、というような?面白いです。
リアルアバターという言葉の意味がどうにもバーチャル世界でのリアルなアバターのことかと思ってしまったんですが、この小説でのリアルアバターはあくまでもリアルの世界をリアルな人間を操作することで体験するもの。もちろん、この小説の舞台ではバーチャル世界も発達していて、リアルとヴァーチャル、2つの世界があるというかそういった描写になっていました。
本心はあるのか?
主人公は事故死してしまった母の本心が知りたいとヴァーチャルフィギュアを作成するのですが、これがなんというか、人間が死んでも生き続けるというような、SF感があり、大変面白かったです。(なんなら結構安いです)
読者としては、出来上がってきたヴァーチャルフィギュアの『母』のことを本当の母とは違う、と主人公がずっと認識しているので、別のキャラクターのように捉えることができました。とはいえ、こう言った技術、リアルとヴァーチャル、境目がなくなる世界観もすぐそこだなあと読みながら感じました。フェイクなのか、人が永遠に死なない方法なのか・・・
主人公は母の本心を知るためにヴァーチャルフィギュアを作りますが、最終的には自分の行動を通じて、母の本心に近づいていきます。『母』に本心を尋ねても、母を知る人に本心を尋ねても、主人公が満足する回答を得られない状況が続きます。主人公は自分のフィルターを通した母の本心を知りたかったようなんですよね。
まあ、私個人としては人の本心なんてものはないように思います。人間の自己認識ってつくづく矛盾に溢れており、これといった本心なんて見つからないのではと思っているんですよね。そういうこともあり、主人公は本心をどのように得るのか?この本はどのように着地するのだろうと後半読み進めました。
後半では、富裕層の青年、事件を起こした元同僚、偶然助けた女性、母の愛人といったような人物が登場し、主人公が思いもよらない人々に触れていきます。読んでいて主人公はかなり行動的だな、と思いました。極度のマザコン?と思っていた主人公は本書の中で内面が大きく変わるわけではないけれど、色々な人に会い意欲的に母の本心を探します。あ、やっぱり極度のマザコンなのかな。
結局主人公は母の本心は全て理解するのは難しいと理解したのだと感じました。本書の中では「最愛の人の他者性」という言葉が出てきます。これの意図は解釈さまざまありそうですが、、、本当に愛している他者であるからこそ、距離を保つべきだということ、他者であるから全て理解できないってことかなと感じました。
それにしても、この主人公の母、同年代くらいだと思うんですよね。なんとなく自分が2040年の頃何をしているんだろう、安楽死を望んでいるような感じなんだろうか、と考えてしまいました。
そのほか
本では、貧困、格差社会、安楽死(本書の中では「自由死」)、リアルとヴァーチャルといったテーマを感じました。まさに現実の社会問題に対する、著者の問いかけを感じます。貧困についての記載は私には結構違和感がありましたが、それこそ向こう側にいるからなんでしょうか。格差や安楽死の合法化により、どういう理由で安楽死を選ぶのか、死の理由も格差によるものなのか考えさせられますね。面白かったです。